邦画が大豊作だった2016年から2017年にかけて『この世界の片隅に』と同じくらい心を動かされた作品。それが『人生フルーツ』です。
日本住宅公団のエースとして活躍した建築家、津幡修一さんと英子さん夫妻の日常を追うドキュメンタリー。スローライフなんて流行りの言葉じゃ括れない「ときをためる暮らし」が綴られます。
↓まずは映画予告編をご覧ください
孫娘が欲したシルバニアファミリーを自作する。それが修一さん。
“しゅうたん”のために頻繁にジャガイモ料理を作るけど、自身は大の苦手。それが英子さん。
映画終盤、修一さんはひとつの建築にたずさわります。詳細は省きますが、物語のひとつの見せ場。完成した施設を見学するシーンで映画は終わります。
その建築、街のサナーレ・メンタルヘルス・ソリューションセンターがあるのは佐賀県伊万里市。JR伊万里駅から自転車で10分ほどの、マンションや工場、田んぼが混ざりあうエリアに佇んでいました。
ゆるい勾配屋根と深い軒をもった木造の平屋が4棟、畑を囲むように並んでいます。
外から眺めるだけ…の予定だったのですが、やけに人がウロウロ。閉じた施設と思っていたらカフェ併設でした!嬉しい誤算!
お店の名前はCoeur de Nature(クール・ド・ナチュール)。フランス語で「自然なこころで」といった意味を持つのだそう。
店に入って第一印象はその明るさ。庭に面した大きな窓と天窓から光が差し込みます。
青空と雲
2つに割られた丸太が柱を挟み込む。いわゆる“レーモンドスタイル”ですね。
アントニン・レーモンド(1888~1976)
チェコ生まれの米国人建築家。帝国ホテル建設のためフランク・ロイド・ライトに伴われて来日。レーモンド建築事務所を設立し、40年以上の長きにわたり日本で活躍した。現存する代表作に聖パウロカトリック教会、東京女子大学、群馬音楽センターなどがある。 画像出典:Wikipedia
修一さんはレーモンドの事務所に勤務していたこともあって氏を敬愛。名古屋市郊外の高蔵寺ニュータウンにある自邸は、レーモンドの邸宅兼アトリエに倣ったものでした。街のサナーレは修一さんが望んでいた「2軒目のレーモンド・ハウス」なのです。
窓際の柱もレーモンド流。少し内側に立てることで引き込み戸を実現する「芯外し」です。全面開け放しもたぶん可。
修一さんにアドバイスを求めた時点で、建物の設計は終わっていたといいます。しかし、提案を受けて大幅にやり直したとのこと。
英子さんも少し前に来店されたとお店のスタッフさんから伺いました。お元気だったそう。(私の訪問は2018年4月)
畑で作物を育て、収穫・加工し、お店に出す。それぞれに被支援者さんが従事。社会とのゆるい繋がり。
のんびりしてたら16時の閉店時間を過ぎてて申し訳なかったのですが、それに気付いたのはお店を出たあと。急かされることはありませんでした。つまり、そんな時間が流れているカフェ。
自家用車ならぬ自家用トラクターで乗り付けるお客さんもいて、早くも地元に馴染んでいる様にみえました。
まだ幼い庭の木々も時を重ねるごとに、大きく丈夫に育っていくことでしょう。修一さん英子さん宅がそうであったように。
風が吹けば、枯れ葉が落ちる。
枯れ葉が落ちれば、土が肥える。
土が肥えれば、果実が実る。
こつこつ、ゆっくり。
人生、フルーツ。 ※ナレーション樹木希林
Coeur de Nature/クール・ド・ナチュール
営業時間:12:00~16:00
電話番号:0955-25-9795
定休日:日 月 水 祝
所在地:佐賀県伊万里市二里町八谷搦1179〈地図〉
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