国内最後の円形庁舎「旧・田尻町役場」の最後の姿

好天に恵まれた2017年ゴールデンウィーク。各地の観光地が喧騒に包まれるなか、全国で唯一現存するとされる円形庁舎がひっそりとその役目を終えました。宮城県にある大崎市役所田尻総合支所、かつての田尻町役場です。今回の訪問では幸運にも内部撮影ができたので、貴重な記録としてここに留めておきます。

JR仙台駅から普通列車に揺られること約1時間。稲作や畜産を主産業とするのどかな地に大崎市役所田尻総合支所は立っています。地上2階建ての小さな庁舎で、屋上の塔屋を含めた延べ床面積は約830㎡。総工費1100万円をかけて1958(昭和 33)年に完成しました。

設計は円形建築を提唱した坂本鹿名夫 。同時代に盛んに建てられた“円形校舎”はまだ各地に残っていて、三重県の朝日小学校は登録有形文化財に指定されています。大阪人には清風学園の円形校舎(2015年解体)が馴染みあるかもしれません。

私がこの庁舎の存在、そして解体建て替えの議論を知ったのは2016年の初めだったでしょうか。保存運動も一部展開されていましたが、結局は解体されてしまうのが常。現役稼働しているうちにひと目だけでも…と今回の東北旅のメインに組み込んだのです。

しかし、現地に行ってびっくり。入り口に「5月8日から移転先で業務開始」の貼り紙が。つまり私が行った5月4日の時点で既にこの庁舎での最後の業務は終わっていたのです。

GW中の開庁はそもそも期待していなかったので、外観のみ見学ってのは変わりません。でも、解体への流れが確実に進んでしまっていたことを現地で知ったのがショックでした。

しかし、ここから事態は急展開を迎えます。職員さんがいらしたので声をかけると、内部を撮影してイイよーとまさかの一声!ちょうどこの日が引っ越し最終日で運び出し作業が終わった直後だったそう。運が良すぎる!

せっかく得た機会。時間がない中、できる限り撮影してきました。

せっかくなので1階玄関から順に紹介していこうと思います。円形建築は各部屋が扇型に区切られているのが特徴。玄関も例外ではなく、奥に向かってすぼまった形になっています。

2つ目の扉を抜けると

中央に据えられた螺旋階段がどーんとお出迎え。

階段の主役感が凄いです

各部屋がロビー外周に沿って配置されます。円形建築のメリットとして建材費の節約、狭小敷地でも建設可能なことなどが挙げられますが、当時は何よりインパクト、先進性が重視されたのでしょう。大貫村、沼部村、田尻町の合併で新たな田尻町が発足した際に、この庁舎は計画されました。田尻町誌には「新町建設への斬新な気がまえを示すものとして当時話題に…」と記録されています。

これは市民窓口のカウンターでしょうか。描く曲線がなんともユーモラスです。一方で円形建築が廃れてしまったヒントもこの写真に写っています。普通のオフィス家具だとレイアウトが難しいんですよね。デッドスペースも生じやすくなります。(机の並べ方は放射状だったのかな??)

また、円形建築のほかの問題点として建物の拡張性の低さ、部屋の向きによる日当たり、温度の差などが明らかになり、1970年代にはあまり新設されなくなりました

籠状になった螺旋階段を真下から

頭上注意!

ぐるっと螺旋を描きながら2階へ

2階ロビーも1階同様に円形。限られた光の中、階段の存在感が一層際立っていました

円形の穴が上にも下にも。なんだかSFな感じです。

荷物が運び出された室内。外周にはバルコニーが廻っています。

次は最上階です

最上階は小さなスペースなので全体に光が行き渡っています。近年は倉庫として使っていたとか。階段の籠の上についてるのは照明器具かな?と、あとで確認したのですが違うみたいです。なんなんでしょう?

建物に入った亀裂の記録。庁舎建て替えの主な理由として老朽化、耐震性が挙げられています。東日本大震災では大きく損傷したと聞きました。

屋上です!

塔屋かわいい。少し残念な天気でしたが気分は最高でした。

さぁ、螺旋階段の醍醐味!最上階から見下ろした感想は「手摺がガクガクだなぁ…」でした。

見下ろす系だとこの写真が好みかも。渦巻感がでている気がします。

1階に戻るとプレートを見つけました。竣工時に取り付けたものでしょうね。わざわざ「円形庁舎」と書いてる辺りにこだわりを感じます。「直径」には思わず笑ってしまいました。

桜と円形庁舎のコラボは来年にはもう見られないでしょう。ただ「円形の記憶」は建て替え後の庁舎デザインに引き継がれることが決まっています。

消えることがわかっている建物と別れるのは名残惜しい。職員さんの「あなたが最後の撮影者かもしれないね」の言葉がズシッときました。国内最後の円形庁舎。その最後の姿を記録できたことはせめてもの救いでした。